パジャマとテディベアと私

子持ち30代会社員(女)の毎日を綴ります。

純粋な自分は今も胸の中に

多くの人にあるであろう、青春の甘酸っぱい恋の思い出。私も人並みに恋愛は経験してきた。でも、その多くはどこか冷静で、理論だてていくタイプのそれだったと思う。

 

例えば高校の時。私は俗に言うコギャル世代で、女子高生というだけで価値があったような時代に生きていた。分類的にはサブカル女子(ビレッジヴァンガードに入り浸る感じ)だった私も、それなりに色っぽい話題はあった。とはいえ相手が望む「女子高生の私」に自分を戦略的に近づけることで、狙った相手が落ちるまでの過程を楽しむ感じ。夢中になって一所懸命、みたいな恋愛を潜り抜けては来なかった。その後、男性が引いてしまうタイプの大学に入学したことで色恋の種類も変わり、私としても「もう若くないし」という老けた考えになったので、相手を落とすのが目的の恋愛はしなくなったのだけど。基本的に一歩引いていて、ノロケ話がうまくできない恋愛ばかりだった。社会人になってもその傾向は変わらず、結婚に至るまでもそんな感じで味気ない。

 

私に純粋だった頃はないのか、甘酸っぱいトキメキエピソードは...と考えを巡らせたとき、必ず思い出すエピソードが1つある。小6の時の話だ。

それは冬、雪が降っていた日@西東京。午後になるにつれて粉雪から牡丹雪に変わり、順調に道が白く変化しているような日だった。多分私は親に買い物を頼まれ、近所のスーパーに行った帰り。傘をさして公園横の桜並木を歩いていると、見知った人影に遭遇した。それは、当時私が好きだった人。そして、全く根拠はないが、おそらく両想いだった人。彼はバスケがうまくて、身長も170㎝近くあり、肌の綺麗なイケメンだった(うちの母親は彼を「滝沢秀明に似ている」と言っていた。怪談倶楽部で人気だった彼に似ているとは、ちょっと言い過ぎとは思うが、まあそのくらいカッコよかった)。彼と私は「おう...」みたいな感じで挨拶をしたあと、黙って雪舞う並木道を歩いた。

私は緊張して何も喋れなかった。いつも明るい彼も何も発しない。更に、彼は傘をさしておらず、パーカーのフードを被っただけの状態だった。傘に入れてあげたい...と思ったけれども、小6の私には「相合い傘」が示す意味が告白に匹敵するくらいプレッシャーで、実行にうつせなかった。そしてそのプレッシャーがまた、私たちから会話を遠ざけたのだった。降りしきる雪の中、二人以外は誰もいない。雪のせいか、何の音も聴こえない、本当に二人だけの空間のような気がする。私たちはゆっくり、ゆっくり歩いた。

やがて並木道が終わり、彼と私は違う方向に進む地点までやってきた。私たちは顔を見合せ、静かに「バイバイ」と言い合い、お互いに背を向けた。人生で一番、ドキドキして、でも幸せな一時だった。ずっと続けばいいのに!そう思える時間だった。

 

その後彼と何か進展があったかというと、何もなかった。彼は公立中学、私は私立中学に行ったため会う機会がめっきり減ってしまい、盛り上がっていた気持ちは会えない時間が長引く間に何処かへいってしまった。だからこれは、本当に他愛ないエピソードに過ぎない。

でも、四半世紀経っても脳裏に当時の映像を浮かび上がらせることができる。それくらい私にとっては印象的で、大切な、思い出なのだ。こんな文学的な経験をしたのに、その後どうして頭でっかちな恋愛しか出来なくなったのやら...と若干悲しみを覚えつつ、純粋だった頃の私を大切に胸の中にしまっておこうと思う。